『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ(A Knight of the Seven Kingdoms)』を観た。観終わったあと、しばらくソファから動けなかった。『ゲーム・オブ・スローンズ』と同じ世界の物語だと聞いて身構えていた私の予想は、良い意味で裏切られた。裏切りと陰謀と血の雨が降る、あの容赦ないウェスタロスに、こんなにも素朴で、こんなにも人間くさい物語が息づいていたのか。
草臥しの騎士と少年に、気づけば心を掴まれている
主人公ダンクは、どこにでもいそうな男だ。高貴な血筋もなく、輝かしい武勲もない。ただ「騎士でありたい」という願いだけを抱えて各地を放浪している。演じるPeter Claffeyの佇まいが絶妙で、大柄な体格の中に不器用さと優しさが同居していて、見ているだけで胸がざわつく。彼が馬上槍試合に出ると決めた瞬間、私はもう完全に彼の側にいた。頑張れ、と声に出しそうになった。自分でも驚くくらいに。
そしてエッグ。Dexter Sol Ansellが演じるこの少年の眼差しが忘れられない。不思議な子だ。どこか達観したような、それでいて年相応の無邪気さも持っている。ダンクとエッグの凸凹コンビが画面に映るたびに、私は安心した。この二人がいれば大丈夫だと、根拠もなく思わせてくれる。それは脚本の力でもあるし、二人の芝居の化学反応でもある。
正直に言うと、引っかかった部分もある
没入しながらも、冷静なもう一人の私がときどき顔を出した。ウェスタロスの「100年前」という時代設定のわりに、社会の描写がやや薄い箇所がある。ターガリエン王朝がどういう空気で民を治めていたのか、その質感をもう少し丁寧に積み重ねてほしかった場面がいくつかあった。特に中盤、物語のテンポを優先したのか、世界観の奥行きが犠牲になっている回がある。あのエピソードはもったいなかった。
それから、『ゲーム・オブ・スローンズ』を知らない人が観たときに、この作品単体でどこまで成立するのかという問題。私はあの世界の歴史や名家の因縁をある程度知っているから楽しめたが、予備知識なしで観た友人は「面白いけど、背景がわからない場面がちょっとある」と言っていた。前日譚としての宿命なのか、それとも脚本の説明設計の問題なのか。たぶん両方だろう。
それでも、この物語が描く「騎士道」に私は泣いた
引っかかりを差し引いても、この作品が描こうとしているものの核は揺るがない。ダンクが体現する騎士道は、剣の腕前や血統の話ではない。弱い者の前で立ち止まれるか。名誉を失っても正しいと思うことを選べるか。恥ずかしいけれど、私はダンクのある場面での選択を見て涙が止まらなかった。それは派手な戦闘シーンでもなく、感動的な音楽が流れる場面でもなく、ただ彼が黙って立ち上がっただけの、静かな瞬間だった。
ここだけの話、私が本当に惹かれたのは、ダンクとエッグの関係が「守る者と守られる者」から少しずつ変化していく過程だ。エッグはただの子供ではない。彼には秘密がある。その秘密が明かされたとき、二人の関係性の意味が全く変わる。それでもダンクはダンクのままで、エッグはエッグのまま隣にいる。身分や血筋を超えた信頼が、この残酷な世界で一番強い鎧になる。その描き方が、私にはたまらなかった。
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剣と竜の世界に、人間を見た
結局、私がこの作品に心を動かされたのは、ファンタジーの壮大さではなく、人間の小ささと、それでも捨てない矜持の話だったからだ。ウェスタロスという世界は、権力と暴力が支配する場所として描かれ続けてきた。でもその100年前に、こんなにも愚直に「正しくありたい」と願う男がいた。その事実が、あの世界全体の見え方を少しだけ変えてくれる。
完璧な作品ではない。世界観の説明不足や、テンポに揺れがある回も確かにあった。それでも、ダンクが立ち上がるあの瞬間を思い出すと、細かい不満は霧のように薄れていく。物語の力とは、きっとそういうものだ。
体感点数:81点


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