舘ひろしが刀を抜いた瞬間、劇場の空気が変わった
実写化というのは、原作ファンにとっては常に賭けだ。「あのキャラクターをこの俳優が?」という違和感は、どれだけ予算をかけても拭えないことがある。だが、舘ひろしの土方歳三に関しては、もう文句のつけようがない。スクリーンに映るだけで時代の重みが漂う。台詞を発する前に、立ち姿だけで「この人は修羅場を何度もくぐってきた」と観客に納得させてしまう。それは演技というよりも、舘ひろしという俳優が何十年もかけて身体に刻んできた存在感そのものだった。
前作から引き続き、山﨑賢人の杉元佐一は泥臭く、まっすぐに物語を牽引する。だが今回は、土方歳三の物語が並走することで、映画全体の厚みが一段と増していた。不死身の杉元と、もう老いを隠せない土方。この二人の対比が、ゴールデンカムイという物語の核をくっきりと浮かび上がらせている。
The Pop Score
Rating based on impact and craft.
網走監獄のスケール感と「詰め込み」の功罪
網走監獄襲撃編というタイトルが示す通り、今回のクライマックスは監獄での大乱闘だ。囚人たちとの入り乱れた戦闘シーンは、前作を大きく上回る迫力で、座席に押し付けられるような感覚があった。アクション監督のこだわりが随所に見える。杉元の我武者羅な戦い方と、尾形の冷徹な射撃、そして土方の流麗な剣捌き。それぞれの戦闘スタイルが明確に描き分けられていて、画面がごちゃつかない。これは実写アクション映画として相当にレベルが高い。
正直に言うと、原作のエピソードを詰め込みすぎている感はある。ラッコ鍋のシーンや相撲のくだりなど、ファンサービス的な場面が次々に挟まれるのだが、これが映画としてのテンポを少し削いでいるように感じた。原作を知っている人間にとっては「やってくれた!」という喜びがあるものの、初見の観客にとっては展開の速さについていくのが精一杯かもしれない。
山田杏奈のアシリパが背負うもの
山田杏奈のアシリパは、前作よりも確実に成長していた。表情の幅が広がり、特に父の影を追うシーンでの目の演技に引き込まれた。彼女が弓を構えるとき、そこにはただの戦闘ではない、アイヌとしての誇りと覚悟がにじんでいる。
個人的に最も印象に残ったのは、アシリパと杉元が再会するシーンだ。派手な抱擁があるわけでもない。ただ目が合って、微かに頷く。それだけで二人の間に流れてきた時間と信頼が伝わってくる。こういう静かなシーンを大切にできる映画は、信頼できる。
体感点数:82点
シリーズとしての完成度は着実に上がっている。舘ひろしの土方は映画史に残る実写キャスティングだと思うし、アクションの質も国内映画としては最高峰の部類だ。一方で、詰め込みすぎによるテンポの乱れと、キャラクターの掘り下げが浅くなる場面がいくつかあったのは惜しい。もう少し尺があれば——と思わせる贅沢な悩みこそが、この作品の器の大きさを証明しているのかもしれない。次作があるなら、必ず劇場に足を運ぶ。
※画像:© ゴールデンカムイ / TMDB

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